特別対談「岩田進×佐藤卓」イルグルム誕生までの軌跡
2019年8月1日、当社は「株式会社イルグルム」になりました。
創業20年に先立ち、行われたリブランディングプロジェクト。
約2年の時間をかけ自社のこれまでとこれからをじっくり見つめ、新しい社名とロゴが生まれました。
リブランディングの総合ディレクションは、日本を代表するグラフィックデザイナーの佐藤卓さんにお願いし、最終的に108案にも及ぶ社名と10案のロゴマークをご提案いただきました。
そしてその中から、
意味を持たない文字列を語源とする社名とどこにでもある輪ゴムをモチーフにしたロゴマークを選び、イルグルムとして新しいスタートを切ることになりました。
社名変更を発表した5月。
全社員が集まる総会にて、佐藤卓さんと代表の岩田の対談を行いました。
最初は、新社名に戸惑っていた社員も社名やロゴマークに込められた想いを理解し、愛着を持つきっかけとなりました。
足跡のない道を選びつづけたリブランディングプロジェクト。
その道のりと、そこに込められた想いを、佐藤卓さんと岩田の会話を通して皆さんにもお届けできたらと思います。
社員はまるで体をめぐる血液のような存在
リブランディングを進めるに当たっての会社のイメージは
佐藤:実はIT業界のことはあまり知らなくて。なんとなく勝手にイメージを持っていたんですけど、皆さんにお会いしてみたら何しろ温かい感じがしました。まずそれが最初の印象ですね。
いろんな意見をお聞きしたんですが、何か障害が起きると問題が起きているところから逃げていく人や組織が多い中で、むしろ問題が起きているところにみんなが集まってくるというお話は特に印象に残っています。まるで白血球みたいだなと。
人間の体を社会と仮定するとまるで血液みたいな印象でした。酸素をちゃんと体に(社会に)めぐらせるのは赤血球ですよね。白血球というのは、問題が起きたらそこに集まってきて戦うわけです。そしてうまく体が、社会が成り立つように調整していく。そんな感じがしました。社会を成り立たせるために会社の人がとても温かくて人間味があって。血液みたいな存在なのかなというのが頭によぎりました。
岩田:私自身も「温かさ」は一番の強みだと思っています。そこを的確にくみ取っていただいてとても嬉しいですね。
リブランディングを決めた当初は、これからどう進めていくのか、そしてどんなアウトプットになるのか、不安に思う部分もありました。約20年間使ってきた社名とロゴを変えるわけですからね。でも、佐藤さんと最初にお会いした時に感じたお人柄から、安心してお任せできると思いました。
当社のイメージについては始めて伺いましたが、やはりさすがとしか言いようがないですね。
独自の価値でインパクトを与える存在でありたい
新社名で表現したかった想いとは
岩田:世の中にインパクトを起こすにはどうしたらいいか、会社を始めてから約20年間、ずっと考えているテーマです。あれもこれもと手を広げるより、まずは一つの分野でしっかりと存在感を発揮すること。それが何よりも重要だという考えにここ数年至っています。
私の好きな言葉に「一隅を照らす、是国宝なり」という言葉があります。いきなり世の中全体を照らすような存在になるのは簡単なことじゃありません。でも、一つの隅であってもそれを照らせる存在は尊いですし、やがて社会全体を照らす存在になると考えています。
違う言い方をすれば、「独自の価値」という表現になるかも知れません。個人としても、会社としても、そうあり続けたい。そんな想いをどうにかして社名で表現したくて、佐藤さんには色んな言葉を尽くして伝えさせていただきました。
佐藤:最初の段階では、あまりイメージを作らずお話を伺いました。デザイナーってすぐにアイデアが出たり、イメージが湧いたりしちゃうところがあるんですよね。でも、それは意外と危険でもっともっとよく理解をさせていただいてから、自然に浮かび上がってくるようなものが本来あるべきで、見つけるべきものだと思っています。
なので最初から無理やりイメージを作ることなく、素直に岩田さんの言葉をお受け取りしました。
足跡のないところに足跡を
ご提案いただいた108案から「イルグルム」を選んだ理由は
岩田:新社名を最初に見た時は、「何だこれは」って感じでしたね。ほとんどの名前って意味がある。シリコンバレーのベンチャーであっても、日本の歴史ある会社であっても、なんらかの語源がありますよね。それが一つだけのところもあれば、二つ三つ組み合わせているところもあると思うんですが、そもそもまったく語源がないという切り口は衝撃的でした。
同時に、YRGLMという綴りと音の感じ方がすごく美しいなも思っていました。でも、意味のない文字列というのがどうしても引っかかって、別の社名も検討することにしました。
そんなある時、ふと創業当時から経営理念として掲げている「Impact On The World」の先にある世界ってどんな姿だろうかと思ったんです。理念を実現したその先の姿にイルグルムという名前をつけたらどうだろうかと。ミサイルが狙いを定めて突き進む姿を意味する「LOCK ON」、突き進む原動力であり、志である「Impact On The World」、そしてその先にある理想の世界「YRGLM」というストーリーがあれば、語源がないという懸念はむしろプラスに働くのではないかと思いました。響きと綴りも素晴らしいく、しっくりきていたので、これでいこうかなと思いました。
佐藤:もう一度考える、もう一度考えさせていただくというプロセスを経て、何回かに分けてご提案をさせていただきましたが、新社名はその比較的最初の方に入っていました。
最終108案ある中で、107案は意味があるわけじゃないですか。それはいわゆるありがち。どんな単語を選んでも、もしくは単語と単語をくっつけた造語の場合でも、二つの単語には意味があってそれが一つになっています。なので、107案は意味があるわけです。だけど、この案だけが意味はない。でも、それが最終的に残りましたね。
他に意味があるものも残しながら、最後はデザインに落とし込んで検討していくという段階に入っていきました。名前だけで決めるというのも難しいと思うので、そこで我々のデザインの力を少し使っていただいて、最終的に選ばれた時は本当にすごいなと思いましたね。
これしかないわけです。世の中にほとんどこれしかないくらいのものなので、それを選ばれたという勇気がいちクリエーターとしてすごく嬉しかったというか、「あ、そっち行きますか。行くんだったら一緒に行きます。足跡ないですけど、そこ歩いて行きますか。」という気持ちでしたね。だいたいみんな足跡のあるところを歩きたいわけですよ。でも新社名は、足跡がないところに足跡をつけていくという感覚なので、それを選んでいただいたんだったら、ぜひ一緒に行きましょう。というような感じで大変嬉しかったですね。
輪ゴムのシンボルマークが表すもの
ロゴデザインに込められた想いとは
佐藤:デザインは、いつも全て違う方向で見ていただくようにしています。似たようなものは一番いいものをお見せすればいいと思っていますので、考え方が違うものを見ていただいたわけですね。
色んな案を見ていただきましたけど、輪ゴムの案だけがですね。他の物とはちょっと違う、まったく違うアプローチのものでした。
輪ゴムそのものには意味がなくて、人が意味を与えたり、色んな使い方をを見出すものですよね。あまりにも身近なものなので、会社のシンボルマークになるとは誰も思っていない。でも、日常に溢れているから逆にそれがイルグルムのスイッチになるわけです。「あ、輪ゴムをマークにしていた会社あったな。」と。
しかもその5つの輪っかは組み合わせを変えれば、色んな形に変化する。だからこの案には、皆さんの名刺は同じものが一枚もないという考え方を込めてプレゼンテーションしました。
他のマークはきちっと決まっている。でもこれは、一部メインは決まっているんだけれど色んな見せ方が可能なので、実は動いているものの一瞬という感覚ですね。だから動かないシンボルマークと違って、考え方がこれだけが違っていました。
これをお預けしてしばらく経って、「輪ゴムのデザインに決めました」って連絡を受けた時に「お~、それいきますか。まったく足跡のないところに行きましょう。」という気持ちでしたね。名前からマークからビジュアルから今までないものを結果として選ばれているので、本当に嬉しく思います。
岩田:この案だけが他と違って線も細いし、動きがある感じでした。すごく複雑で、多様性があって、それでいてお互いの和というかつながりも感じさせてくれる。そういう世界観を全体のデザインから受け取ったというのがすごく衝撃的でした。そして、会社のロゴに輪ゴムを使っているというのも面白いかなと思いましたね。(笑)
佐藤:名前からロゴからシンボルマークから通常はありえないというものを最終的には全部選択していただきました。クリエーションの塊です。本当に素晴らしいご判断をされたと思います。社名が変わる記念すべき瞬時にご一緒できたのは本当に光栄です。
岩田:私の想いを想像をはるかに超える素晴らしい社名とロゴで表現していただき、ありがとうございます。これから先の20年、そしてその先も多くの人に愛されるように大切に使っていきたいと思います。
こうして生まれた新生「イルグルム」。
私たちの日々の行動がまだ見ぬ理想の世界に近づく一歩になれるよう、
これからも励んでいきたいと思います。