はじめまして、広告プラットフォーム事業本部、開発部の三間です。
ADEBiSのインフラを担当しています。専門分野はMySQLなどデータベースなのですが、今回は少し違った視点での話をします。
IT系技術書では洋書が多数出版されており、その膨大さにエンジニアの方は常日頃意識はしているかと思います。また、エンジニアにとっての英語といえば、読むこと以外にも様々な思惑があるはずです。
その思惑は大体に以下に代表されるでしょう。
- 日本でまだ拡がっていない情報をいち早く取り入れたい
- OSSのコミッタとして、海外の開発者と関わっていきたい
- 世界で通用するエンジニアとして自分をアピールしていきたい
今回は「日本でまだ拡がっていない情報をいち早く取り入れたい」の一環として「洋書の技術書を読む」に関してお話します。加えて、当社では洋書読書会を実施しており、そこで気づいたことなどを書きたいと思います。
僕自身の過去を振り返ると、約8年前、MySQLに携わることになりました。
当時は日本語情報がほとんどなく、当時から英語ドキュメントを読み込む必要がありました。そんなこんなを繰り返しているうちに、「なんちゃって英読」ができる(?)ようになりました。
どうやって克服したかを考え直してみると、次の三箇条にまとまりました。
- 得意分野のインプットは英語にせよ
- 返り読みをしない
- 読むときに、速度と理解度を意識する
これらを中心にお話いたします。
1.得意分野のインプットは英語にせよ
「英語を読めるようになるには英語を読むしかない。かわりに英文を持ち歩く。それを読む。英語以外はダメならば、英語を読むしかない」
世界的作家、村上春樹はこうやって英語を身につけた – NAVER まとめ
村上春樹は、高校時代、英語は苦手科目だったらしいです。インプットをただただ英語に限定することで、普段から英語に触れ、徐々に村上春樹流英語を確立していったようです。
村上春樹のとった道は、十分に時間をとれる学生のような人でないと難しいのでは?と思わるかもしれません。英語の勉強時間をとるのが困難(面倒?)な忙しいビジネスマンにとって、いつどのように英語を取り組むかが課題でしょう。こういう時は、ひとまず英語を日常に取り込んでしまいます。これで勉強時間を取らなくて済みます。
ということで、
- macの方はmac OSXを英語環境に設定しましょう。
- google検索は英語設定にして英語サイトのみをGoogle検索結果に表示するようにしましょう。どうしても日本語検索したいときは検索語に日本語を入れれば、日本語サイトの結果が出ます。
- linuxの自分のアカウントは(自己開発環境で!)LANG=Cしましょう。man bashで良質な英語に触れられます。
- Windowsだとどうしましょうか...。
僕自身は普段英語を読むときは、ipadやmacで読むようにしています。appleのマシンだと、ウィズダム英和/和英など辞書が初めから豊富に入っています。しかし、英英辞典はLongmanやOALD(Oxford Advanced Learner’s Dictionary)のような学習用英英辞典とはいきません。僕はCollins Cobuildアプリをiphone/ipadに入れています。Collins Cobuildシリーズは特長として字義をフルセンテンスでしており、英英辞典の中でも馴染みやすいと思います。Collins Cobuild Phrasal Verbsも早くアプリ化されないでしょうか、待ち望んでいます。
「辞書はできるだけ引くな」とよく書籍等で書かれていますが、反して僕はその場で引きます。読み進めていきたいときは、辞書引きを後回ししたりもします。引かずに読むと決めるより、軽く意識付け程度で良いのではないでしょうか。ただ、一文を読むにあたって、読み進めるのが阻害されるほどに辞書を引かなければならないとなると、その本を読むだけの英語力持っていないとみていいでしょう。そういう場合は、「俺に読めない本を書くなんて、なんて悪い筆者だ」と捉えて、その本を一旦ペンディングしましょう。
2.返り読みをしない
すらすら読んでいくために、返り読みはやめましょう!
頭の中で綺麗な日本語にする必要はありません。
英語の語順は、日本語の語順とは順序が異なります。さらに関係代名詞、前置詞などを翻訳をしようとすると、どうしても返り読みをしてしまいがちです。日本語脳的に英文を理解するには返り読みが適当のように思えますが、大きな問題があります。
返り読みすると読む速度が上がりません。
返り読みを矯正するには、簡単な文章を多読するのが有効です。また英文を読むときに、栞を左手に持ち、読んだ語を左から栞で隠していくのも効果的です。
簡単な文章を多読する題材には、次のようなものがあるでしょう。
文法を復習するのも兼ねて文法書
all in oneでは返り読みをしないための対策として、区切りや脳内一時訳が書かれています。”English Grammar In Use”は英語を母国語としない人のための文法書です。日本での高校1~2年生で習うレベルです。解説が英語となりますが、最初の障壁、英語での品詞を「えいや!」と覚えてしますと何とか読み進められるはずです。
ペーパーバック
辞書なしで読んでいくタイプの初学者用洋書などもおすすめです。
“Oxford Bookworms“は教育用ペーパーバックで、辞書なしで読むことを想定して、使う英単語をレベル(starter~1~6)に合わせて、ある程度限定しています。「レ・ミゼラブル」や「華麗なるギャッツビー」などの文学小説が豊富に出版されており、精神年齢を落とさなくてもペーパーバックを読め、継続もしやすいと思います。Oxford以外にも”Penguin Readers“など多数の出版社から同様なシリーズが出ています。詳しくはSSS英語学習法研究会の「SSS推薦・多読用基本洋書のご紹介」を参照ください。また今年からNHKラジオ講座で開講された「Enjoy Simple English」も良質なペーパーバック入門です。お手軽に入手できます。
得意な分野の薄い本
O’reillyのpocket referenceから自分の得意分野を選ぶのも良いかもしれません。概念に関して把握しているので、「英語ではこう表現する」のだと気付きが多いです。webのヘルプやドキュメントでも、もちろん構いません。「これができれば苦労しない」という方は、まずは上記の文法書、ペーパーバックにチャレンジしてみてください。
3.読むときに、速度と理解度を意識する
読みをモデル化すると、次のようになると考えられます。
(速度) x (理解度) = (言語レベル)
右辺の言語レベルは、自分自身が持っている言語の習熟度を表す定数です。
たとえば、日本語であれば、日本語習熟度1で、普段の読み速度、普段の読み理解度は
1 x 1 = 1
となります。ざっと目を通すケースを想定して速度を2倍にしたとき、
2 x 理解度 = 1
となり、理解度は通常に比べて1/2になります。
皆さんは、自分の英語をどの位と想定しますか?
僕は読解において、高校生レベル、0.5と捉えています。とすると
(右辺) = 0.5
理解度を1にしたいとき、
(速度) x 1 = 0.5
(速度) = 1/2
と読む速度は日本語に比べて1/2、日本語を読むときの2倍の時間が掛かることになります。
※若干の誤差はあるかと思います。上の式は目安として捉えてください。
したがって、読むにあたり、理解度を想定した時に、言語の習熟度によって、読む時間を見積もることができます。このことによって、
- この文章を英語で読むべきか
- 用意しておくべき時間と心構え
- ここまで時間が掛かってもいいという安心感
を得ることができます。
皆さんは文章を読む前に、無意識的であっても、速度と理解度をある程度想定しているはずです。
- 新聞をさらりと目を流すときは、キーワードだけを追って、概要のみを把握する。
- 技術ドキュメントを理解するときは、仕様を把握するためにじっくり読む。
取り組もうとしている文章は、どのような目的で読むのか、その目的を満たすには、どのくらいの速度と理解度が必要であるかを、強く意識してください。
注意したいのは、英語を読むときであっても、既に持っている知識や経験を活かすことです。英語を読んでいる時、すっかり英語に飲まれてしまい、思考まで英語の習熟度レベルに落ちてしまう人がいます。普段会話している時、大抵の人は次にくる語を類推しながら聞いているはずです。少々聞こえにくくても、何を言わんとしているのか、ある程度理解していると思います。また、今、中学英語の教科書をみたとき、皆さんは次に書かれるであろう文をほぼ予想できるはずです。
「類推を重ねて、文を読み進める度に修正を加えていく」
が読みの実態(思考の流れ)だと僕は捉えています。
あまりに類推が外れている場合は、その本を読めていません。戻って読み返すか、読む速度を落とす、または一旦ペンディングすることをしましょう。著者と思考がズレているとも考えられます。この場合、問題点は英語ではなく、読み方を変えるといった、いわば読書術に関連してきます。読書術、つまり読みの深さのコントロール、これはこれで深遠なテーマで、興味のある方は「本を読む本」を是非、手にとってみてください。
語学にいかに秀でていても、母国語以外の文章を読むとき、読む速度は母国語に比べて通常遅くなります。時間と理解度が優先されるときには、おとなしく翻訳を選んだほうが懸命です。しかしながら、翻訳の出来は理解度に影響するので、「読み進められないのは、翻訳が悪いのかもしれない」と思わしきときは、原書をあたった方がいいかもしれません。原書と翻訳書を両方所有することも出てくるでしょう。ハズレ翻訳に何度か遭遇するうちに、原書のみにしか興味が行かなくなります。これはこれで成長なのではと思います。
以前、Introduction to Algorithms(3rd edition,Thomas H. Cormen 邦題:数学的基礎とデータ構造)は、「頭のいい人が書いた本を、頭のいい人が訳すと、これほどいい本になる」と担当教授が言っていました。原書・翻訳を比較しながら読むのもいい方法です。
最近では、英文(原文)がweb等で公開されているケースも多くあり、翻訳だけを買うことで比較しながら読む方法を実現できます。たとえば、「ハッカーと画家」(原題”Hackers and Painters”、著:Paul Graham)です。
洋書読書会を開いたよ
とはいっても、一人で読むのは辛いと感じる方も多いでしょう。そんなときは読書会を開きましょう!
株式会社ロックオンでは”Seven Concurrency Models in Seven Weeks”を読む会を開催しています。この”Seven Concurrency Models in Seven Weeks”は、Pragmatic Bookshelf社が出版している”Seven in Seven“のConcurrency編です。出版前から読みたいと思っていた本なので、読書会を開催できて、本当にありがたく思います。
読書会の進め方
この”Seven in Seven”は読書会を開くには、とてもやりやすい構成になっています。読書会といえば前から読んでいくのが、通常のやり方でしょう。”Seven in Seven”では、テーマが独立して7つにわかれているため、読み番を決めるのがとてもやりやすいです。毎週、決まった日に全員が担当箇所を説明する形式にしました。各自の負担が均一になり、回ごとにどのテーマにも進捗があり、知的好奇心を失わずに、進められます。
英語の翻訳突き合わせ会にならないこと
発表するからといって、綺麗に翻訳してレジュメを作成する必要はありません。翻訳は読む作業とは幾分異なり、日本語探しに近いです。日本語での表現が思い浮かばないときは、英語でそのまま書いていたほうが、参加者にはわかりやすいかもしれません。
本を読むにあたってスタート地点が、参加者にとって飛躍過ぎない
Preface(序文)で想定する読者を技術書では大抵書いています。飛躍が無いように、本選びをしましょう。
この”Seven Concurrency Models in Seven Weeks”は、「環境構築は説明しないよ」と念を押して何回も言ってきます。また洋書にありがちな、課題の飛躍感は半端なく、しかも解答なし(これもありがち)です。どこまでやるかは、その時次第で軽く捉えていきましょう。
さて、”Seven Concurrency Models in Seven Weeks”の内容なのですが、これはこれでブログ1ネタになりそうで、次の機会に!